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慢性炎症老化(インフラメイジング)とは何か。肌の中で静かに続く「くすぶり」が、老化を進める。

松下 嵩枝

2026年10月30日

慢性炎症老化(インフラメイジング、英語で inflammaging)とは、加齢とともに体の中で弱い炎症が途切れずに続き、それ自体が老化を進めてしまう現象のことです。

炎症という言葉から、赤く腫れる、熱を持つ、痛む、といった状態を思い浮かべる方が多いと思います。それは「急性の炎症」です。インフラメイジングは違います。目に見えるほどの症状はなく、何年も、何十年も、静かにくすぶり続けます。

私はこの「くすぶり」こそ、エイジングケアで見落とされている起点のひとつだと考えています。

インフラメイジングという言葉の始まり

この概念を最初に示したのは、イタリアの免疫学者クラウディオ・フランチェスキらです。2000年の論文で、年齢を重ねるほど体内の炎症の度合いが慢性的に高まっていく現象を「inflamm-aging」と名づけました。

その後の研究で、この慢性的な炎症は、動脈硬化、2型糖尿病、認知機能の低下など、加齢にともなう多くの不調に共通する土台になっていると考えられるようになりました。

肌も例外ではありません。皮膚は体の中で最も大きな臓器であり、慢性炎症老化の影響を最も目に見える形で受ける場所です。

なぜ、炎症はくすぶり続けるのか

インフラメイジングには、大きく分けて三つの火種があります。

1. 老化した細胞が出し続ける「炎症のシグナル」

細胞は傷つくと、分裂をやめて「老化細胞」になります。問題は、この老化細胞が静かに眠っているわけではないことです。

老化細胞は、周囲に炎症を起こす物質(サイトカイン)や、コラーゲンを分解する酵素を出し続けます。この性質は SASP(細胞老化関連分泌形質)と呼ばれます。一つの老化細胞が、まわりの健康な細胞まで巻き込んで、炎症を広げていくのです。

2. 酸化ストレス

紫外線、大気汚染、睡眠不足、ストレス。これらはすべて活性酸素を増やします。活性酸素は細胞を傷つけ、炎症のスイッチを入れます。

そして炎症が起きると、そこでまた活性酸素が生まれます。酸化と炎症は、互いを呼び合う関係にあります。

3. 壊れたバリアからの、絶え間ない刺激

ここが、肌にとって最も重要な点です。

年齢とともに、肌のバリア機能は少しずつ落ちていきます。バリアが弱ると、外からの刺激が入り込み、肌は小さな炎症を起こし続けます。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループは、高齢の方では肌のバリア機能の低下が、皮膚の中だけでなく、血液中の炎症性サイトカインの上昇にまでつながっている可能性を示しました。肌のくすぶりは、肌の中だけで終わらないかもしれない、ということです。

肌に現れるインフラメイジングのサイン

慢性炎症老化は、こんな形で肌に現れます。

  • 以前より乾燥しやすく、季節の変わり目に揺らぎやすくなった
  • 赤みやくすみが抜けにくくなった
  • 小さな傷や肌荒れの治りが遅くなった
  • ハリが落ち、細かいシワが定着してきた
  • 何を塗っても、以前ほど手応えを感じない

どれも「年齢のせい」と片づけられがちな変化です。でもその奥には、コラーゲンを分解する酵素が働き続け、修復が追いつかない、という炎症の構図があります。

酸化・糖化・炎症は、ひとつの連鎖

私はこれまで、老化の起点として酸化について書いてきました(酸化が、老化の起点です。)。バリア機能の大切さについても書きました(バリア機能が壊れると、何を塗っても届かない。)。

インフラメイジングは、これらを一本の線でつなぐ考え方です。

酸化が細胞を傷つける。傷ついた細胞が老化細胞になる。老化細胞が炎症を広げる。炎症がバリアを壊す。壊れたバリアからさらに刺激が入り、また酸化と炎症が起きる。

この循環を、どこかで断ち切ること。それが、慢性炎症老化に向き合うということです。

日々のケアで、できること

インフラメイジングは、一つの成分や一回の施術で止められるものではありません。毎日の積み重ねで、火種を増やさないことが基本です。

バリアを先に整える

最初にするべきことは、バリア機能を守り、整えることです。

先ほどの研究グループは、その後の小規模な臨床研究で、高齢の方がバリアを補う保湿剤を1日2回、30日間使い続けたところ、血液中の炎症性サイトカインの値が下がったと報告しています。まだ規模の小さい研究であり、結論づけるには早い段階ですが、「肌のバリアを整えることが、慢性炎症のくすぶりを鎮める入口になりうる」ことを示す、とても興味深い結果です。

洗いすぎない。強い界面活性剤やアルコールの多いものでバリアを削らない。セラミドなど、バリアそのものを作る材料を補う(セラミドについて、正しく知ってほしいこと。)。地味ですが、ここが土台です。

酸化の火種を減らす

紫外線を避けること、そして抗酸化の手当てを続けることです。炎症と酸化は互いを呼び合うので、酸化を抑えることは、そのまま炎症の連鎖を弱めることにつながります。

体の内側の生活

睡眠、食事、運動、ストレス。慢性炎症は全身で起きている現象なので、肌の外側だけで完結するものではありません。よく眠ること、体を動かすこと、偏りのない食事をとることは、遠回りに見えて、肌のくすぶりを鎮める確かな方法です。

よくある質問

慢性炎症老化とインフラメイジングは同じものですか?

同じものです。英語の inflammation(炎症)と aging(老化)を組み合わせた inflammaging(インフラメイジング、炎症老化)を、日本語では慢性炎症老化と呼ぶことが多くあります。

自分の肌が慢性炎症を起こしているかどうか、わかりますか?

はっきりした自覚症状がないのが、慢性炎症の特徴です。乾燥しやすさ、赤みの抜けにくさ、治りの遅さ、ハリの低下などが重なっているときは、肌の中で炎症がくすぶっている可能性を考えてみてください。気になる症状が続く場合は、皮膚科で相談してください。

急性の炎症(ニキビや日焼け)とは何が違いますか?

急性の炎症は、原因に反応して強く起こり、治まれば終わります。慢性炎症老化は、弱い炎症が長く途切れずに続き、少しずつ組織を傷めていく点が違います。

何歳から気にするべきですか?

炎症の度合いは年齢とともに少しずつ高まっていくため、早いほど良いと考えています。特に、肌の揺らぎや乾燥を感じ始めた時期は、バリアを整えることから始めるきっかけになります。

最後に

老化を「時間が経てば起きること」として受け入れるのではなく、「肌の中で何が起きているのか」を知ること。それが、正しい順序でケアを選ぶための第一歩だと私は考えています。

慢性炎症老化は、目に見えないところで静かに進みます。だからこそ、知っておいてほしいと思って書きました。

参考文献

  1. Franceschi C, Bonafè M, Valensin S, et al.. Inflamm-aging. An evolutionary perspective on immunosenescence. Annals of the New York Academy of Sciences. 2000. doi:10.1111/j.1749-6632.2000.tb06651.x
  2. Franceschi C, Campisi J. Chronic inflammation (inflammaging) and its potential contribution to age-associated diseases. The Journals of Gerontology: Series A. 2014. doi:10.1093/gerona/glu057
  3. Coppé JP, Patil CK, Rodier F, et al.. Senescence-associated secretory phenotypes reveal cell-nonautonomous functions of oncogenic RAS and the p53 tumor suppressor. PLoS Biology. 2008. doi:10.1371/journal.pbio.0060301
  4. Hu L, Mauro TM, Dang E, et al.. Epidermal dysfunction leads to an age-associated increase in levels of serum inflammatory cytokines. Journal of Investigative Dermatology. 2017. doi:10.1016/j.jid.2017.01.007
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